院長のご挨拶
日本では、国民の30人に1人(約400万人)が精神疾患のために医療機関にかかっています。この数は糖尿病、脳卒中、心筋梗塞やがんの患者数を上回っており、もはや国民病と言ってもいいかもしれません。特にここ最近ではうつ病など気分障害の増加が目立っており、この要因として、メンタルヘルスの意識が広まったことや、精神科クリニックが増えてアクセスしやすくなったことが指摘されています。
下関病院は、附属地域診療クリニックが外来部門であれば、主として入院部門です。精神科の入院となると、クリニックに比べて、多くの方にとってどのような所なのか想像しにくく、依然として敷居が高いと言えるかもしれません。以下では入院の流れについて簡単にご説明したいと思います。
当院の入院患者さんの多くは、急性期病棟(スーパー救急病棟)もしくは認知症治療病棟で治療を行います。私は急性期病棟の治療にも携わっていますが、入院治療に関して大きく3つの流れがあると思います。それは、①患者さんの症状や困り事に対する診断・見立てをする、次に②診断・見立てに基づき患者さんや家族などへの対応・支援方法を考える、そして③退院に向けた具体的な調整・支援をすることです。①では、患者さん自身の訴えはもちろん、ご家族の話や心理検査などの客観的な情報をもとに、その症状や困り事をなるべく多角的に捉えて把握・判断します。②では、医師、看護師やコメディカル(作業療法士・精神保健福祉士・心理士)といった多職種の参加する症例カンファレンスで情報を共有し、その対応・支援方法を患者さん・ご家族と話し合います。③では、患者さんの退院・支援のタイミングを考えます。入院期間はいたずらに長ければ良いというわけではなく、患者さん個々人によって最も治療効果のある時期があります。そのタイミングで精神保健福祉士など専門職と連携し、退院に向けた調整を行い、必要な支援を準備します。急性期病棟では、患者さんの状態や疾患にもよりますが、おおむね2~3か月程度の入院期間を想定しています。
日本における精神科の入院期間は、諸外国に比べると突出して長いことが知られています。長期入院になると在宅復帰率が下がり、ますます退院が困難になるという悪循環に陥ります。症状の改善や機能回復を目指した治療を行うことはもちろんのこと、私たちは患者さんに対して、各個人が場合によっては制限を抱えながらも「自分らしい生活」を送ることができるよう退院支援を積極的に行って参ります。入院患者さんやその家族にとって分かりやすい医療を実践し、精神疾患の正しい理解と知識を広めること、それが下関病院の使命です。
院長 水木 寛