【院長コラム】日本精神科病院協会雑誌 寄稿文
日本精神科病院協会雑誌(2024年(Vol.43)11月号)に水木院長が寄稿しましたので、文面を掲載いたします。
当院の病棟再編の取り組みを通して
山口県下関市にある下関病院の水木寛と申します。私は2016年9月に父・泰より現職を引き継ぎました。父は2016年11月に他界しましたが、生前日精協の広報委員を務めており日精協会員の皆様には大変お世話になりました。急な交代だったので、私の理事長・院長就任当初は、次から次へと噴出する目の前の難題への対応に終始していたように思います。それから何年か経ち、課題が色々とあるのは今も変わりませんが、少し先のことを考えながら病院の運営に取り組むことができるようになってきたかもしれません。
当院ではコロナ禍にあった2022年度より長期入院患者の退院促進を行い、慢性期患者が中心であった開放病棟(100床)を再編成しました。それにより2023年からストレスケア病棟(50床)と慢性期病棟(50床)の運営を始めています。退院促進をして病棟の再編成を行なった理由はいくつかありますが、在院患者の高齢化、死亡退院や転院患者の増加、さらに長期入院患者に対する接遇の問題などが挙げられます。ストレスケア病棟を立ち上げることで、気分障害圏の新たな患者層を開拓し、開放病棟を有効利用することができないかと考えて取り組みました。本来であれば時間をかけて移行するのが理想ですが、コロナ禍で病床利用率が低下したタイミングを機会ととらえ、入院患者を増やすのではなく、いわば逆張りのような形で退院促進をしました。
病棟立ち上げにあたっては、不知火病院(福岡)や草津病院(広島)のストレスケア病棟を病院スタッフと共に見学させていただきました。当院では精神科救急急性期医療入院料を算定する急性期病棟に毎月一定数の入院があるため、ある程度の患者確保の算段はありました。しかしながら、病棟開設当初はストレスケア病棟の病床利用率は50%を割り込み、病院全体の利用率も80%を切るところまで低下していきました。経営的に大きな投資ができない状況で、どのように集患をするのか?院内でプロジェクトチームを結成し、取引のある大手銀行の医療経営コンサルタントに助言を仰ぎながら、当院の特色を活かした病棟運営についてディスカッションを重ねました。病棟のビジョンやミッションについて話し合うことで病棟コンセプトを共有し、病棟ルールや治療プログラムづくりに活かしました。また、患者確保のためにはマーケティングが重要と考えて、地域連携室のスタッフを中心に精神科病院・クリニック及び企業への訪問も行いました。立ち上げから1年以上が経過し、少しずつ入院紹介をいただくようになり、病院全体の病床利用率は90%程度まで回復してきています。
病棟再編の過程で病床利用率が落ち込んだ時期がしばらく続き、経営的な打撃にもなったので、その際は自分の行なっていることが正しいのかと振り返り、時には心が折れそうになることもありました。しかし、そのような中で理事長職について考える機会を持ち、理事長に求められる役割は自院の現状を踏まえながら地域に必要とされる精神科医療を実現していくことではないか、と思うようになりました。その実現が本当に難しいのですが、将来振り返って自分の実践したい医療はこれだったと言えるような運営ができれば本望です。ストレスケアのニーズは山口県にもあると信じて、これからも取り組み続けたいと思います。