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統合失調症

統合失調症

疾患のサイン・症状

    • いつも不安そうで、緊張している
    • 悪口を言われた、命令されたと言う
    • 監視や盗聴をされていると言う
    • ぶつぶつと独り言を言っている
    • にやにや笑うことが目立つ
    • 命令する声が聞こえると言う(幻聴)
    • 話にまとまりがない
    • 作業ミスが多く、集中できない
    • 人付き合いを避け、引きこもっている
    • 身なりに構わなくなり、入浴もしない
    • 感情の動きが乏しくなる(感情鈍麻)
    • 他人の感情や表情についての理解が苦手になる

参考文献:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

よくある質問

Q統合失調症の患者さんはどれくらいいるの?
A

世界各国の報告をまとめると、生涯のうちに統合失調症を発症する人(生涯有病率)は、全体の人口の0.48%(人口1000人に対して4.8人)とされています。1940年から1970年に行われた日本における研究では、その生涯有病率は、0.19~1.79%(中央値は0.4%前後)であり、最近(2019年)国内で行われた研究では0.59%と報告されました。このようにばらつきがあるのは、研究のデザイン、対象の違いなどが影響していると考えられます。発症率や有病率から推算される生涯発症危険率(morbid risk)は約0.8%であり、ほぼ120人に1人が罹患する疾患ということができます。一般的に、統合失調症は100人に1人が罹る病気であると言われていますが、それよりはやや少ないのかもしれません。

厚生労働省の患者調査(2017年)では、日本国内の統合失調症の患者さんの数は約79万人(約80万人)とされています。統合失調症の患者さん約80万人のうち、外来患者数は63.9万人(概ね年々増加)、入院患者数は15.4万人(概ね年々減少しているが、入院患者数の半分を占めており最多)です。ちなみに、生活習慣病である糖尿病の患者さんは320万人、悪性疾患(がん)170万人、心疾患(心筋梗塞など)170万人、脳卒中(脳血管疾患)110万人であり、統合失調症の患者さんの数は決して少なくない数字です。

 

参考文献:Baba et.al BMC Psychiatry 2022
標準精神医学第8版(医学書院)

Q統合失調症は遺伝するの?
A

統合失調症患者を親にもつ子どもの生涯発症危険率(morbid risk)は約10%、両親が統合失調症の場合は約46%とされています。一般人口における生涯発症危険率は0.8%(約1%)なので、それぞれ約10倍、約46倍と考えられます。遺伝子がほぼ同じである一卵性双生児の片方が統合失調症を発症した場合、他方が発症する割合(罹患一致率)は、48%(約50%)であるのに対し、二卵性双生児における一致率は約10%です。一卵性と二卵性双生児による複数の研究結果からは遺伝率(heritability:一個人ではなく集団に対して、遺伝的な影響が強そうかどうかの推定)は81%と高い(遺伝的な影響が強そう)ということが知られています。

以上の事実は、統合失調症における遺伝的な要因の重要性を示すものです。しかしながら、一卵性双生児における罹患一致率が約50%であるということは、残りの50%は環境的な要因など後天的な要素が影響していると考えられています。

 

参考文献:標準精神医学第8版(医学書院)

Q統合失調症の長期予後について
A

統合失調症患者さんの経過は、人によってかなり違いがありますが、その予後は一般的に「1/3ルール」に要約されると言われています。すなわち、約1/3の患者さんは、治療により回復して、正常あるいはほぼ正常の生活を送る(そのうち約10%が完全寛解、約20%は予後良好)とされます。次の約1/3の患者さんは、症状の持続もしくは時に悪化はあるものの、治療により安定した状態を保つことができるとされます。そして、残りの約1/3の患者さんは、残念ながら改善が不十分、もしくは悪化をしていくとされています。ただ、新たな治療薬が開発されている昨今では、約半数が完全あるいは軽度の障害を残して回復するとも言われています。 また、予後に影響する要因に関する報告は以下のものがあります。これも例外が多く、個別の患者さんにおける転帰は様々で予測は困難です。

1.発症後の治療開始までの期間(精神病未治療期間:DUP)が短いものは予後が良い

2.再発、症状悪化が少ないと予後が良い

3.幻覚妄想状態など急性に発症したものや、発症に明らかな誘因があるものは予後が良い

4.認知機能障害などがあり病前の社会適応が不良、もしくは陰性症状が強いものは予後が良くない

5.病識が乏しく服薬が不規則、もしくは社会的支援が乏しいと予後が良くない、など

Q統合失調症の回復(リカバリー)とは?
A

統合失調症の長期予後について上記のような報告はありますが、私たちは患者さんの回復(リカバリー)を目指して治療を行います。リカバリーとは、症状の消失(寛解)を指すものだけではなく、社会生活機能や職業的機能の改善を意味する用語です。そして最近では、症状の消失や寛解とは独立した、患者さん個人の体験としてのリカバリー(パーソナルリカバリー)が注目されています。それは患者さんが、疾患を自分でコントロールしながら、自分らしく生きている状態、もしくは自分が求める生き方を主体的に追求するプロセスを意味します。パーソナルリカバリーは、当事者中心の精神医療(パーソン・センタード・ケア)において目指すべき状態として重視されています。

 

参考文献:当事者中心の精神看護
標準精神医学第8版(医学書院)

Q治療方針の決定について
A

治療方針の決定方法は大きく3つに分類されると言われています。1つ目は治療者の意見が100%採用されるタイプ(パターナリスティックタイプ)であり、それが時代の流れと共にインフォームド・コンセントを代表とするインフォームドタイプへと変わってきました。そして昨今、推奨されているのが、3つ目の共同意思決定(shared decision making:SDM)です。

インフォームド・コンセントは、複数の治療選択肢のメリット・デメリットを紹介したうえで当事者の意見を全面的に採用する方法で、決定の主は当事者である患者さんです。そのため、ともすれば患者さんが決定に迷い、時には治療者に対して突き放されたという印象を持つというリスクがありました。

共同意志決定(SDM)は、患者さんと治療者それぞれが意見を積極的に述べるという双方向のコミュニケーションに基づくことが原則です。これは、患者さんに「治療者が自分の治療に対してより親身に関わってくれている」というプラスの印象を与えます。特に、慢性的に経過する疾患や、同程度の効果的な治療選択肢が複数存在する疾患の場合には、患者さんの価値観も大きく変わり得ることから、共同意志決定(SDM)の導入が望ましいとされています。統合失調症の患者さんの治療においても、SDMを導入した方が治療への満足が得られやすく、再入院が少ないとする報告があります。

パーソナルリカバリーを目指した治療・支援の提供にあたっては、治療者によるパターナリスティックな方針決定や単なるインフォームドタイプの決定ではなく、患者さんによる双方向の共同意志決定(SDM)、すなわち本人の希望や価値観、主体性を尊重した関わりが重要と考えられています。

 

精神医学2020年10月号

Q統合失調症と身体疾患
A

統合失調症の平均寿命は、一般人口に比べて約10〜25年程度短いと言われています。また、統合失調症の死亡率(一定期間に亡くなった方の割合)は、一般人口に比べて1.5〜2倍高いとされています。このように平均寿命が短く、死亡率が高い原因は、統合失調症に併存する身体疾患の影響や事故、自殺の影響が考えられます。身体疾患では、統合失調症患者が心血管系疾患(心筋梗塞など)を合併するリスクは、1.5~2倍高いとされています。その心血管系疾患の原因となる生活習慣病(肥満、糖尿病、高血圧など)のリスクは、1.5~3倍高いとされ、生活習慣病のリスクも同様に高いことが知られています。

生活習慣病などの身体疾患は、定期的に血液検査を行うなど、予防やきちんとしたフォローが必要です。当院では、入院患者さんやクリニック受診中の患者さんに対して、3~6ヶ月に1回程度の血液検査を実施しています。必要あれば、内服薬の変更を提案し、もしくは内科への紹介を行っています。

参考文献:De Hert et.al World Psychiatry 2009
標準精神医学第8版(医学書院)

Q統合失調症の薬物治療①-向精神薬と抗精神病薬
A

脳に作用して精神や行動に影響を及ぼす薬物の総称を「向精神薬」と言います。代表的な向精神薬には、抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、精神刺激薬、抗不安薬、睡眠薬、抗てんかん薬、抗認知症薬があります。

統合失調症の治療には、抗幻覚妄想作用を特徴とした「抗精神病薬」を使用します。補助的に、気分安定薬、抗不安薬、睡眠薬などが使用されることも(よく)ありますが、あくまでも統合失調症の薬と言えば抗精神病薬です。抗精神病薬は、1950年代に偶然発見された薬剤(クロルプロマジン、ハロペリドール)から始まりました。その機序が、脳内の神経伝達物質であるドパミンを遮断するというものであることがわかり、統合失調症の精神症状にはドパミン神経伝達が病的に過剰になっているという説(ドパミン仮説)が導かれました。統合失調症の病因・病態にはドパミン仮説以外にグルタミン仮説などありますが、1950年代以降、現在市場にある抗精神病薬はほぼすべてドパミン仮説に基づき開発されており、ドパミン遮断/部分遮断作用を持つものです。統合失調症のドパミン仮説は有力な仮説ではありますが、そのすべてを説明できるわけではないので、現在の抗精神病薬の限界(効果不十分or無効)もあります。そのため、違う機序・仮説に基づく薬剤(創薬)も期待されていますが、まだ開発段階であり市場にはありません。

Q統合失調症の薬物治療②-第1世代・第2世代(非定型)抗精神病薬
A

抗精神病薬は、その開発時期により大きく二つに分けられます。それは、1950年代より開発された第1世代抗精神病薬と、1980年代後半のリスペリドン(日本では1996年から使用)以降の第2世代抗精神病薬です。名称の分類として、第1世代抗精神病薬を「定型」「従来型」と呼ぶのに対して、第2世代抗精神病薬を「非定型」「新規」と表記される場合もあります。ただ、第2世代抗精神病薬が世に出て30年以上が経ち、それらが主流となる中で、「非定型」「新規」という表記はかえって分かりにくいかもしれません。

第1世代抗精神病薬は、脳内ドパミン(D2)受容体への親和性(くっつく力)が非常に高く、幻覚や妄想を抑える力は強いものの、副作用(錐体外路症状や高プロラクチン血症など)が頻発することが問題となっていました。そこで脳内ドパミン(D2)受容体への親和性が比較的低く、ほかの脳内神経伝達物質の受容体(セロトニン2A受容体)へも作用するという新たな性質を持つ第2世代(非定型)抗精神病薬が開発されました。(従来薬に比べて、強い錐体外路副症状や高プロラクチン血症を伴わないという意味で、もともと「非定型」という用語が使われています)

上記のように、第2世代抗精神病薬は、第1世代抗精神病薬に比べて錐体外路症状などの副作用が少ないため、統合失調症のすべての治療ガイドラインで第一選択は第2世代抗精神病薬となっています。(ただ、第2世代抗精神病薬においても、体重増加など注意すべき副作用があります)

Q統合失調症の薬物治療③-第2世代抗精神病薬の種類と使い分け
A

2022年11月現在、日本で上市されている第2世代抗精神病薬は、クロザピンを含めると11種類あります。それぞれの抗精神病薬には、錠剤・口腔内崩壊錠・徐放剤・液剤・貼付剤・注射剤など複数の剤型があるものもあります。統合失調症の治療は主にこれらの薬から、患者さんにあった薬を選択します。

第2世代抗精神病薬はそれぞれの性質の違いから、SDA(serotonin dopamine antagonist:セロトニン-ドパミン遮断薬)、MARTA(multi acting receptor targeted antipsychotics,多元受容体作用抗精神病薬)、DPA(dopamine partial agonist、ドパミン受容体部分作動薬)の3つに分類されることがよくあります。ただ、これらの命名は製薬企業によって自社製品の特徴をアピール・宣伝するために行われたもので、命名方法に明確な定義があるわけではありません。確かに薬の大まかな違い・プロフィールを把握する上で便利な部分もありますが、DPAをさらにDSS(アリピプラゾールのこと)とSDAM(ブレクスピプラゾールのこと)などと分けて言うこともあり、名称が乱立してかえって分かりにくくなっているのではないかと思います。

また、抗精神病薬の鎮静作用に注目して、鎮静作用の強い(鎮静系)抗精神病薬、鎮静作用の弱い(非鎮静系)抗精神病薬に分けることもあります。鎮静作用の強い抗精神病薬は急性期の症状を抑える効果が期待できるのに対して、鎮静作用の弱い抗精神病薬は眠気やだるさといった副作用が比較的少ないため、長期的な使用に有利とする報告があります。

Q統合失調症の薬物治療④-通常の治療で効果が乏しい場合
A

上記のように、統合失調症の30%は抗精神病薬が奏功しないか、副作用のために投与が困難とされています。複数(2種類以上)の抗精神病薬を、十分量(クロルプロマジン換算600mg/日以上)、十分期間(4週間以上)投与しても改善が認められない場合を、治療抵抗性統合失調症(治療性不良)と呼びます。そのような治療抵抗性統合失調症患者の1/3~1/2には、非定型抗精神病薬であるクロザピンが有効とされ、わが国でも2009年にようやく導入されました。

クロザピンの使用には、患者さんへの説明・同意が必要です。また、無顆粒球症や糖尿病などの重篤な副作用があるため、登録施設において、厳格なモニタリングシステム(CPMS:クロザリル患者モニタリングサービス)のもとで用いられています。モニタリングは、具体的に週1回の血液検査による白血球数の報告と、4週間に1回の血糖検査の報告です。白血球数の報告は、値に問題がなければ26週以降は2週間毎、4週間毎と間隔が長くなります。

わが国の統合失調症患者さん約80万人のうち、その30%である約24万人が治療抵抗性統合失調症と推定されています。しかしながら、本法でクロザリル治療を受けている患者さんは8729人(2019年6月)程度と1万人を下回っており、全患者の約1%、適応者の約3.6%に過ぎません。これは諸外国に比べて7〜30倍もの差があると言われています。厚生労働省は、第7次医療計画において、慢性期入院患者の25~30%に相当する4~5万人にクロザピンを普及させることを見込んでおり、これからクロザピンを一般的な医療として普及させることが喫緊の課題とされています。また、国内において、クロザピンが比較的普及している県(山梨、岡山、沖縄など)とそうでない県の差があること、つまり地域偏在も課題とされ均てん化が求められています。当院もクロザピンの登録施設であり、普及を目指して行きたいと考えています。

 

参考文献:統合失調症薬物治療ガイドライン2022
臨床精神薬理 2018 Vol.21 No.11, 2020 Vol.23 No.1

Q抗精神病薬の副作用について①-錐体外路症状
A

薬物を使う際に、薬物に一番求められている作用を主作用と言います。抗精神病薬の場合は、統合失調症の症状を抑えるのが主作用です。その主作用に対して、薬の使用によって生じる主作用以外の作用を「副作用」と呼びます。副作用は必ずしも体に有害な作用とは限りませんが、一般に副作用は治療目的に合致せず、望ましくないものもあることが多いので「有害反応」と同じ意味で用いられることがあります。抗精神病薬の副作用の一つである鎮静作用は、急性期の症状を緩和させる際には有益な作用となりますが、日常生活を送る上での眠気や怠さという点では、場合によっては有害な作用になります。

抗精神病薬の副作用には、主に脳内ドパミンの伝達が過剰に抑えられて起きる副作用(錐体外路症状、高プロラクチン血症)や、それ以外の神経伝達物質の伝達が抑えられることで起きるとされる副作用(体重増加、血糖上昇、脂質異常症、抗コリン作用、鎮静作用など)、さらにアレルギー反応による機序が関連する副作用などがあります。

錐体外路症状はEPS(Extrapyramidal symptoms)とも呼ばれ、パーキンソン症状・ジストニア・アカシジアなどの急性のEPSと、数ヶ月ないし数年経過して生じるジスキネジアなどの遅発性のEPSに分けられます。錐体路は脳の指令を意識的(随意)に筋肉に伝えて動かすための神経経路であるのに対し、錐体外路は筋肉の緊張や協調運動を反射的、無意識的(不随意)に行っている神経経路です。そのため、EPSはふるえなどの不随意運動や筋肉のつっぱり(筋緊張の異常)を引き起こします。第2世代抗精神病薬は第1世代に比べてEPSが少ないとされていますが、その種類や用量によっては副作用としてEPSが引き起こされることがあります。EPSに対して、軽微で生活に支障がなければそのまま様子を見ることもありますが、そうでなければ薬剤変更や用量調節をして対処することもあります。

 

参考文献:抗精神病薬の「身体副作用」がわかる 長嶺敬彦著
精神科薬物療法のプリンシプル 仙波純一著

Q抗精神病薬の副作用について②-高プロラクチン血症
A

プロラクチンは、乳腺の発達や乳汁の分泌に関与するホルモンです。プロラクチンは脳内の下垂体(前葉)にある内分泌腺で作られ分泌されます。下垂体はその上部にある視床下部から放出される視床下部によりコントロールされており、プロラクチンの分泌を抑制するのがドパミンです。

プロラクチンは、普段の生活ではたくさん分泌されないようにブレーキがかけられています。視床下部が妊娠したことを察知すると、そのブレーキが解除され、プロラクチンが分泌し、乳汁の産生を促します。ところが、抗精神病薬によって脳内ドパミンが遮断されると、プロラクチン分泌の抑制までとれてしまい(漏斗下垂体系ドパミン経路)、プロラクチンの産生が促進され、高プロラクチン状態になることがあります。このため、妊娠をしていないのに乳汁が漏れ出たり(乳汁漏出)、月経異常(無月経)になることがあります。男性でも、乳房が腫脹して痛みを感じたり、乳汁が漏出することがあり、密かに悩んで薬をやめてしまうこともあるので注意が必要です。さらに、高プロラクチン血症は、それ以外に射精不能や性欲低下や肥満を引き起こし、長期にわたると女性では乳がんや骨粗鬆症の発症を高める危険性が指摘されています。

第2世代抗精神病薬は、第1世代抗精神病薬に比べて高プロラクチンを引き起こしにくいとされていますが、これもその種類や用量が関係します。血中プロラクチン値は血液検査で測定できるため、持続的にプロラクチン値が高い場合には、抗精神病薬の用量調整や変更を検討します。ちなみに、血中プロラクチン値は、脳内でのドパミン遮断がどれくらいであるかを測る指標になると考えられています。

 

参考文献:精神科の薬がわかる本第4版 姫井昭男著
抗精神病薬の「身体副作用」がわかる 長嶺敬彦著

Q抗精神病薬の副作用について③-代謝系の副作用
A

第2世代抗精神病薬には、肥満・高血糖・脂質異常などの代謝系への副作用が指摘されています。実際、オランザピンやクエチアピンには高血糖を引き起こす可能性があることから、糖尿病の患者さんに対しては禁忌とされています。そもそも統合失調症の患者さんは、自発性の減退やセルフケア不足により代謝系の異常をきたしやすい傾向にありますが、抗精神病薬の使用によりそのリスクがさらに高まると言われています。そのため、第2世代抗精神病薬内服中の患者さんには、定期的に採血などをして血糖値や脂質プロフィールなどをモニターすることが推奨されています。具体的には、抗精神病薬の導入前、導入後1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、それ以降は3ヵ月毎といった頻度です。代謝系のリスクは第2世代抗精神病薬の種類によって異なることが知られているため、代謝系の異常が現れたときには薬剤変更を検討することがあります。

 

参考文献:抗精神病薬の「身体副作用」がわかる 長嶺敬彦著
精神科薬物療法のプリンシプル 仙波純一著

Q統合失調症の治療はいつまで(維持期の治療も含め)
A

維持期(安定期)は統合失調症が改善して病状が安定している時期です。再発を防ぐとともに、社会的な生活機能レベルやQOLを維持し、向上を図ることが目標となります。症状を注意深く観察しながら、抗精神病薬の副作用を含め合併症の予防にも気を配る必要があります。再発防止には、患者さんの服薬アドヒアランスアが保たれていることが非常に重要です。服薬アドヒアランスが不良となる要因として、患者さんの病識が乏しいことや、耐えられない副作用(鎮静作用、EPS、体重増加など)、認知機能障害といったものが挙げられています。維持期においても急性期で用いた薬剤を継続することが多いですが、薬の効果を個々の患者さんにあったものに調整し、副作用の発現を最小化するために、抗精神病薬を徐々に調整(減量)することもあります。

薬剤の中止については、米国精神医学会の治療ガイドラインによると、精神病エピソードが1回しかなく、1年以上無症状である場合は、中止を試みてもよいが、2回以上エピソードを繰り返した患者さんは長期的な投与が必要とされています。一方で、日本のガイドラインでは、有効性と安全性を考慮すると、安定した統合失調症に抗精神病薬を中止せず継続することが強く推奨されています。

 

※服薬アドヒアランス

納得して自分の意思で服薬することです。薬の正しい服薬を患者さんか守れるかどうかを表すのに、もともと「服薬コンプライアンス」という概念が用いられていました。コンプライアンスは服薬遵守と訳され、患者さんが医師や薬剤師の指示に従って服薬することを意味します。それに対し、「服薬アドヒアランス」は、患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って自分の意志で服薬することを指します。この呼び名の変更には、患者さんは医師や薬剤師の指示に服従させられる存在ではなく、医療チームの一員として、自分の治療方針の決定に積極的に参加するべきという期待がこめられています。

 

参考文献:標準精神医学第8版(医学書院)
統合失調症薬物治療ガイドライン2022
臨床薬理学入門 笹栗俊之著

厚生労働省ホームページ

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