うつ病
疾患のサイン・症状
- 「気分が落ち込む」、「気が滅入る」
- 趣味や娯楽などに興味が持てない
- 食べたい気持ちがなくなる
- 「寝つきが悪い」「途中で目が覚める」
- 「疲れやすい」「やる気が出ない」
- 「自分は役立たずの人間だ」と考える
- 「考えが進まない」「決められない」
- 「迷惑をかけて申し訳ない」と考える
参考文献:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
疾患のサイン・症状
参考文献:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
伝統的な精神医学では、うつ病の病前性格としてメランコリー親和型性格が重要視されていました。これは、秩序指向性、他者配慮性、徹底性といった性格傾向が強い場合を指します。毎日が問題なく、決められた通りに過ごせている時は、勤勉で真面目で周囲の評価もいいのですが、環境変化に柔軟に対応するという点で不器用な面があります。また、他人との関係を重視しすぎて、依頼や申し出を断りきれず多くの仕事を抱え込む傾向にあります。
メランコリー親和型性格の人に、仕事や家庭などで環境変化が起こると、「あれもこれもやらなければならない」と優先順位がつかなくなり、「徹底的にやりたい」ので完璧を追い求める結果、自分の許容範囲を超えてしまい、うつ病発症につながると考えられています。
最近、メランコリー親和型性格を示さず、自責性も乏しく、抑うつを自ら訴える一群が目立ち、現代型うつ病あるいは新型うつ病と称されていますが、精神医学的にはいまだ十分な合意に至った概念ではありません。
参考文献:標準精神医学第8版(医学書院)
うつ病の57%はなんらかの不安症(社交不安症、パニック症、全般不安症)や強迫症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を合併するとされています。両者の時間的関係は不安症がうつ病に先行する場合が多く、不安症を合併していると、うつ病の治療効果が得にくいこと、自殺の危険率が高いことが知られています。また、うつ病の9〜15%にパーソナリティ障害の合併があることが報告されています。特に、若年発症のうつ病にはパーソナリティ障害が合併する割合が多く、その合併は治療効果を悪化させる因子であるとされています。
参考文献:標準精神医学第8版(医学書院)
うつ病になると、自己評価が極端に下がり、「自分は役に立たない人間だ」といったとらえ方、「皆に申し訳ない」と自責的になることがあります。その結果、「この世にいないほうがよい」「迷惑を掛けて申し訳ないので、消えてなくなりたい」と自殺念慮を生じ、自殺行為(自殺企図)につながってしまう可能性があります。そのため、うつ病の治療では、自殺の可能性に関する評価が重要です。自殺危険率が高いうつ病患者の特徴として、男性、65歳以上、単身者(特に子どもがいない)、過去の自殺未遂の既往歴、自殺者の家族歴、アルコールや薬物依存の合併、不安による苦痛を伴う場合などが挙げられています。無価値感や自責感を背景に生じた自殺念慮では、その回復期に意欲が高まり自殺を遂げてしまう危険性が高くなるため注意が必要です。また、「じっとしていられず、辛くて死んでしまいたい」と精神運動性の不安焦燥感と関連して、自殺念慮が生じることもあります(激越性うつ病)。
参考文献:標準精神医学第8版(医学書院)
Whooley et.al N Engl J Med 2000
うつ病と身体疾患の合併に関して以下の報告があります。①身体疾患をもっている患者はうつ病の有病率が高く、②うつ病の合併が身体疾患の予後を悪化させる因子、③身体疾患の合併がうつ病の予後を悪化させる因子、④精神医学的介入が身体疾患の予後を改善させる。循環器疾患(心筋梗塞など)、脳血管障害、生活習慣病(糖尿病など)、悪性腫瘍といった疾患においてうつ病を合併しやすいことが報告されています。また、妊娠出産は疾患ではありませんが、周産期はうつ病を発症しやすい時期です。特に、産後は産婦の10%近くにうつ病が生じる可能性があるとされ、妊産婦のメンタルヘルスケアの重要性が再認識されています。
参考文献:標準精神医学第8版(医学書院)
Evans et al. Biol Psychiatry 2005
妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル
患者さんご本人をむやみに励まさないこと、大きな決断は先送りにするといったことはご存知の方も多かもしれません。何よりも患者さんが安心して治療できる環境を整えることが大事ですが、そのような対応が難しい時には入院も視野に治療を進めていきます。厚生省のホームページもご参照ください。
うつ病の多くは外来治療で対応可能ですが、入院治療を考慮することもあります。特に、自殺企図や切迫した自殺念慮がある、療養や休息に適さない家庭環境、病状の急速な進行が想定される場合などです。病状の急速な進行が想定される場合とは、身体的衰弱や身体合併状がある、重度である(貧困妄想や罪業妄想といった精神病症状があるなど)、治療反応性の乏しさがみられる場合です。
入院が必要と思われても事情により外来で様子をみる場合もありますが、その際、ご家族などには「終日、見守ることが必要であること」、いよいよ症状が切迫した場合はすぐ病院に連絡していただくようお伝えします。
参考文献:日本うつ病学会治療ガイドライン2016
うつ病の薬物治療の基本は抗うつ薬の投与です。抗うつ薬には、その化学構造式の特徴から命名された従来のもの(三環系・四環系抗うつ薬)や、作用機序から命名された新規抗うつ薬(SSRI・SNRI・NaSSA)があります。いずれの抗うつ薬も抗うつ効果の点では大きな違いはないとされていますが、副作用の少なさを考慮して、第一選択は、SSRI・SNRI・NaSSA(ミルタザピン)が推奨されています。十分量(最大量を超えない範囲)を十分期間(4週間程度を目安に早ければ2〜3週間)使用し十分な効果が得られなければ、他の抗うつ剤への切り替えを考慮します。抗うつ薬の効果を増強させる増強療法として、気分安定薬(リチウム)や非定型抗精神病薬(オランザピンやアリピプラゾールなど)が使用されることもあります。
なお、治療導入期には、患者さんの不安・苦痛軽減のためベンゾジアゼピン系抗不安薬や睡眠薬が併用されることが多いのですが、ベンゾジアゼピン系薬剤は常用量依存の可能性もあり、漫然と使用しないのが原則とされています。
参考文献:日本うつ病学会治療ガイドライン2016